大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 昭和56年(行ウ)9号 判決 1984年9月21日

原告

米田三平

右訴訟代理人

阪口徳雄

井上善雄

山川元庸

被告

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

浦野正幸

外八名

主文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求趣旨

1  被告は、原告に対し、金一三〇万円及びこれに対する昭和五六年七月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  仮執行宣言の場合は、仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  奈良県収用委員会(以下「県収用委員会」という。)は、昭和五二年一〇月三一日、原告に対し、同人所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を収用する旨の裁決(以下「本件収用裁決」という。)をなし、同裁決の通知は、同年一一月五日原告に送達された。

2  そこで、原告は、建設大臣に対し、同年一一月二四日付書面で本件収用裁決を取消す旨の審査請求をなしたところ、同月二九日同書面が受理されたが、それに対する回答として、建設大臣は、右請求後約三年九か月余り経た昭和五六年八月二四日に、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下、棄却裁決という)をなした。

3  右審査請求に対する棄却裁決には、その手続の経過等からみて相当の期間(行政事件訴訟法(以下「法」という。)三条)を経過した違法がある。

(一) 原告のなした前記審査請求の後、棄却裁決までの間に、建設大臣のなした手続の経過は、左記のとおりである。

(1) 昭和五二年一一月二九日原告の審査請求を受理

(2) 昭和五四年五月一八日県収用委員会に弁明書の催告

(3) 右同年六月二六日 県収用委員会からの弁明書を受理

(4) 右同年八月二四日 原告に右弁明書に対する反論書の催告

(5) 右同年九月二八日 原告からの反論書を受理

(6) 右同年一二月一一日 公害等調整委員会へ意見照会

(7) 昭和五五年四月二二日公害等調整委員会の回答書を受理

(8) 昭和五六年七月二四日原告からの不作為の違法確認訴状を受理

(9) 右同年八月二四日付で棄却裁決

(二) しかし、右手続経過のうち

(1) 審査請求受理後、弁明書の催告まで約一七か月あるがその内の一年一カ月

(2) 弁明書受理後、原告への反論書の催告まで約二か月あるがその内の期間の一カ月間

(3) 原告の反論書受理後、公害等調整委員会への照会まで約二か月あるがその内の1.5カ月間

(4) 公害等調整委員会の回答を受理後、棄却裁決までの約一六か月のうち、各担当者の決裁に回すまでの八か月間

合計二四、五か月間、ほぼ二年間は、違法に遅延していた。

(三) その点は、本件棄却裁決書(乙第二号証)の量及び質からしても明らかである。

(1) まず、その量は、全部でも僅か八頁で、その中心的部分をなす判断理由部分も三頁余りにすぎない。

(2) また、質の点でも、そのほとんどが法律上の主張に対する判断に過ぎない。

(四) 以上のとおり、建設大臣は、収用裁決に対する審査請求がなされた場合には、相当な期間内に何らかの処分をなすべきであるのにかかわらず、これを放置し、右相当な期間経過後に至つてはじめて棄却裁決をしたのであるから、右遅延は違法であり、かつこれにつき過失がある。

4  本件棄却裁決が違法に遅延したため、原告は、以下のとおりの損害を被つた。

(一) 電話代 一〇〇〇円

原告は、前記審査請求に対する裁決が遅延していたので、原告代理人を通して、建設大臣に対し、右審査請求に対する回答を速かになすべき旨の裁決の促進方を電話で二回要求した。

原告は、右の電話代として一〇〇〇円を要した。

右は、本件棄却裁決が相当な期間になされておれば、支出すべき必要がない費用である。

(二) 弁護士費用のうち三〇万円

原告は、本件棄却裁決が遅延していた昭和五六年六月二七日、やむなく前記審査請求に対する不作為の違法確認請求及び本件損害賠償請求の各訴えを提起した。

そして、原告は、右各提訴にあたつて、本件原告訴訟代理人に対し、弁護士費用として、不作為の違法確認の請求につき二〇万円、本件損害賠償請求につき一〇万円を支払つている。

(なお、右不作為の違法確認の訴えは、昭和五六年八月二四日に本件棄却裁決がなされたため取下げられた。)

右は、本件棄卵却裁決が相当な期間になされておれば、支出すべき必要がない費用である。

(三) 慰謝料九九万九〇〇〇円

本件棄却裁決が遅延し、その遅延している間も、本件土地上の道路敷設工事が積み重ねられ、それが完成するなど回復し難い状況が生じた。右のような状況で前記審査請求に対する回答を待たされる不安は大きく、その精神的苦痛を金銭に換算すると一〇〇万円に相当するが、内九九万九〇〇〇円を請求する。

5  よつて、原告は、被告に対し、国家賠償法一条に基づく損害賠償請求として一三〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五六年七月二五日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の主張は、否認する。ただし、細部については次のとおりである。

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の主張は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、本件棄却裁決書の量については、認めるが、その余の事実は、否認する。

(四) 同(四)の主張は否認する。

3  同4の主張は否認する。ただし、細部については次のとおりである。

(一) 同(一)の事実のうち、原告代理人から建設大臣に対し、本件審査請求に関して二回電話がかかつてきたことは認め、その余の事実ば否認する。

なお、右電話の内容は、右審査請求の進捗状況を問合せたものである。その主張額の電話代を支払つたとの点は不知。

(二) 同(二)の事実のうち、原告がその主張のような不作為の違法確認請求及び本件損害賠償請求の訴えを提起したこと並びにその後右不作為の違法確認の訴えが取下げられたことは認めるが、その余の主張は否認する。弁護士費用支出の点は不知。

(三) 同(三)の事実は、否認する。

三  被告の主張

1  本件棄却裁決は、相当の期間(行政事件訴訟法(以下「法」という。)三条五項)内になされたものである。

(一) 本件土地収用の経緯

(1) 大和都市計画道路事業二、一、一藺町線(以下「本件事業」という。)は、昭二四年都市計画決定された大和郡山市の都市計画事業の一環として計画、施行されたもので、同四七年八月九日建設大臣の事業認可(以下「本件事業認可」という。)を受けている(都市計画法五九条三項)。

(2) ところで、本件事業の内容は、市道本庄、番条線(同市本庄町地内)を起点として、市道国鉄停車場丸山線(同市柳町地内)に至る長さ七六二メートルの区間に幅員一八ないし二六メートルの道路を新設するというもので、本件事業実施にあたつては、原告所有の本件土地を取得する必要があつた。

(3) そこで、本件事業の起業者奈良県は、昭和四八年一〇月ころより原告との間で本件土地の取得につき交渉を重ねたが、合意による取得が困難となつたため、同五〇年一二月二六日奈良県収用委員会に対し、土地収用法三九条一項、同四七条の三第一項に基づき本件土地の収用及びその明渡裁決の申立をした。それに対し、右収用委員会は、前記のとおり本件収用裁決を行なつた。

(二) 本件棄却裁決に至る経緯

(1) 本件収用裁決に対する審査請求の理由の要旨は、「本件事業自体が都市計画法二条、そして土地収用法に違反するもので、環境アセスメント等環境に対する適正な事前の調査を欠く違法なものである」という主張であるところ、仮に右理由の如き違法が右収用裁決に存した場合、その違法の程度如何によつては、本件事業認可それ自体が無効なものとなり、更に、それが右収用裁決に影響を与える可能性もあるものであつた。

(2) そこで、建設大臣は、まず、右審査請求につき、土地収用法、行政不服審査法等の関連法規に規定する形式的要件の具備を確認したうえで、同請求の実質審査に入つた。

(3)(a) 建設大臣は、実質審査を実施するにあたつて、本件事業それ自体に対する都市計画決定及び本件事業認可の調査つを行なうこととしたが、右都市計画決定は、旧都市計画法に基づいて奈良県知事が決定したものであつたため、右決定についての資料は、建設省内における都市計画決定の担当課である都市局都市計画課に保管されていなかつた。

そのため、右決定についての調査もまた、本件審査請求の担当課であつた同省都市計画局総務課で行なわざるを得なかつた。

ところで、右総務課では、奈良県庁内の都市計画所管部局との間でその所掌事務上直接関係することもなかつたため、土地の収用関係で直接つながりのあつた同県土木部の収用事務所管課を通してその調査をせざるをえなかつたのであるが、右都市計画決定は三〇年以上も以前になされたものであるうえ、その対象も広範囲であり、調査方法においても制約が存したものの、同課において慎重にその調査を実施した。

(b) また、右調査と併行して同省都市局街路課においても、本件事業認可等に対する調査、検討を行なつた。

(c) 右のような調査により、建設大臣は、本件事業認可及びその前提となつた都市計画決定につき一応の調査結果を得たため、行政不服審査法二二条一項に基づき、前記日時に奈良県収用委員会に弁明書の提出を催告したところ、前記日時に、弁明書が送付されてきた。

(d) そこで、建設大臣は、原告に対し、同条三項に基づき、前記日時に弁明書の副本を送付するとともに、それに対する反論書の提出を催告したところ、同人より、前記日時にそれが送付されてきた。

(e) そして、建設大臣は、土地収用法一三一条一項に基づき、前記日時に公害等調整委員会に対する意見照会を行なつたところ、前記日時に、同委員会より回答書が送付されてきた。

(4) 右の如き所定の手続を経て、慎重に審理を加え、前記日時に本件棄却裁決を行なつた。

(三) 建設大臣の本件棄却裁決は、右のとおり、必要かつ十分な調査及び所定の手続を経て適正に行なわれたもので、それが相当の期間内に行なわれたことは、明らかである。

(四) その点は、本件棄却裁決と同種の裁決例におけるその裁決所要期間の比較からしても明らかである。

(1) 昭和四三年以降に受理された建設大臣に対する土地収用に関する審査請求のうち、同五六年九月一日までに裁決がなされたものは、総計一〇一件(代執行にかかるもの及び本件の審査請求を除く。)あるが、その一〇一件の裁決までの所要期間を平均すると、三年一〇か月となる。その内、却下(形式的要件不具備)された三〇件を除いた七一件の右所要期間の平均は、四年三か月である。

(2) ところで、本件の審査請求に対する裁決は、前記のとおり、実質審査を経て審査請求を棄却したものであるが、それが複雑多岐に亘る判断の困難な事案であつたことに徴すると、右却下案件を除く裁決例の裁決所要期間の平均期間四年三か月に比較しても、かなり早期に裁決に至つている。

なお、本件棄却裁決は、原告の前記不作為の違法確認訴訟の提起に対して、その訴訟対策のためにあわててなされたものではない。

2  原告主張の損害のうち、電話代金相当額、及び弁護士費用相当額と本件棄却裁決遅延を内容とする原告主張の建設大臣の違法行為との間には、相当因果関係がない。

(一) 電話代金相当額について

(1) 本件のような審査請求がなされた後、その請求者がその進捗状況につき照会を行なうか否か、また、如何なる方法で行なうかは、請求者自身の自由意思にかかつており、照会は葉書を使用してもよく、電話を用いてすべき必然性はない。したがつて、仮に裁決が遅延していたとしても、それをもつて直ちに照会のための電話代金相当額の損害が発生するという相当因果関係はない。

(2) また、原告主張のとおり、電話による通信が必要であつた場合に当り、それにつき費用を要したとしても、右出費ないし負担は社会的に受忍すべき限度内のものであり、これをもつて、損害賠償請求の対象とするほどの損害ということはできない。そして、右電話に対して、建設大臣からそれに対する応答を得ている以上、その電話の目的は達しているのであるから、損害は回復したものと評価すべきものである。

(二) 弁護士費用相当額について

仮に本件棄却裁決が遅延していたとしても、原告が前記のとおり不作為の違法確認の訴えを提起するか否か、また、提起するとしても、その提起のため弁護士を選任するか否かは、全く原告の自由意思にかかつている。

また、収用委員会の裁決に関しては審査請求前置主義が採用されていないのであるから、原告としては、本件収用裁決に不服があれば、建設大臣に対する審査請求を経ることなく、裁判所に対し本件収用裁決の取消訴訟を提起することができた筈である。必ずしも不作為の違法確認の訴えが原告の権利保護のため有効適切な方法ではない。

したがつて、右遅延をもつて直ちに前記不作為の違法確認の訴え等のために弁護人選任をしなければならないという関係にない以上、右選任のための弁護士費用の負担と右遅延との間には、相当因果関係がない。

(三) 慰謝料について

原告は、本件土地が道路として完成したことに関する精神的苦痛をいうのであるが、そもそも収用委員会の裁決に対する審査請求には執行停止効力がなく、また、原告は、本件審査請求の際、本件収用裁決に対する執行停止の申立もしていないのであるから、本件収用裁決によつて本件土地を取得した起業者は、本件審査請求に対する裁決の有無に拘らず、本件土地の道路工事を進行させることができるのであり、右道路工事の実施、完成によつて、仮に原告が精神的苦痛を受けるとしても、それと本件棄却裁決手続との間には、因果関係がない。

また、本件のような審査請求がなされれば、それに対する回答がなされるまで通常ある程度の期間を要することは明らかであるところ、本件では、前記のとおり、審査請求後、本件棄却裁決がなされるまで約三年九か月を要しているが、右は本件棄却裁決をなすにつき必要とされる相当な期間であつて、原告において受忍すべきものである。

そして、仮に原告において、建設大臣からの裁決を待たされたことによつて精神的苦痛を被つたとしても、本件棄却裁決がなされたことにより不作為状態が解消し、その苦痛は解消したというべきであるから、もはや損害はない。

四  被告の主張に対する認否<省略>

第三  証拠関係<省略>

理由

一土地収用裁決に対する審査請求及びそれに対する棄却裁決の存在並びにその経過

右諸点に関する請求原因1、2、3

(一)及び被告の主張1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二本件棄却裁決に要した期間の相当性

1 ところで、法令に基づく申請に対し、行政庁がなんらかの処分又は裁決すべき「相当な期間」(法三条五項)とは、行政庁がなすべき当該処分又は裁決の性質、内容と右処分又は裁決をなすにつき行政庁の人的構成やその職務内容と職務量等に応じて当該処分又は裁決をなすにつき通常必要とする期間を基準として合理的に判断すべきものと解するを相当とする。なお、右判断に当つては、右処分又は裁決をなすための諸手続に要する個々の期間の相当性も考慮にいれてなすべきであるにしても、右諸手続のうちの一部分に当該手続をなすに必要な期間を超過する部分があつても、その事により直ちに右処分又は裁決が全体として通常必要とする期間を超えているものとなすべきではなくあくまで、それ等諸事情を全体的総合的に判断して、右全体としての期間の相当性を決すべきものと解するを相当とする。

2  これを本件についてみるに、

(一)  先ず、当事者間に争いのない前記事実並びに<証拠>を綜合すると、被告の主張1(二)の事実(本件棄却裁決に至る経緯)のうち、(1)、(2)、(3)の(a)ないし(e)の事実(本件裁決の他に与える影響力と本件棄却裁決に至る諸手続)及び右諸手続を経て本件棄却裁決がなされたこと、そして、本件審査請求事件を含む土地収用に関する審査請求事件(年間約二〇ないし三〇件で、常時係属中のものは、約一〇〇件)は、建設省計画局総務課所属の六名とくにその中の収用係の担当とされているが、右収用係では右審査請求事件以外に、その主要なものとして建設大臣が行う事業認定(年間一〇〇ないし一五〇件程度)に関するもの、知事が機関委任事務として行う事業認定に関する助言、指導(年間約八〇〇件)、そして、建設大臣に関係する訴訟事務(年間約一〇件)、更に、土地収用等に関する県等からの意見照会に対する回答等が担当職務とされていること、右収用係では、本件の如き審査請求書を受理した場合、その請求自体の適法性について形式的要件の具備を判断した後、その実質審査が迅速かつ、適正に処理されるため、その審査対象が複雑多岐に亘る場合で、しかも、その対象と基礎となつた事業の認可処分にまで影響を与える場合には、まず、事件の全貌を解明するため、その審査対象となつた処分の基礎になつた事業を起している起業者やその関係者からも事情を聴取したり、また、資料を収集していること。そして、本件では、弁明書の催告前に右調査をなすべき場合に該当したので、収用係では、前記のとおりの調査を行なつたこと、なお、右調査は、土地収用手続自体が複雑かつ多岐に亘つていることからその手続自体の性質として慎重さが要請され、そして、本件審査請求対象の基礎となつた事業認可の前提となつた本件事業に関する資料が建設省内に存在しなかつたことから少なからず、時間を要したこと、その後、収用係では奈良県収用委員会から前記のとおり催告していた弁明書が送付されてきたので、一般の審査請求手続と同様それに対する検討を加え、そして、反論書を求めるべきか否かの検討を加えた後、原告に前記のとおり反論書提出の催告を行なつたこと、そして、収用係では、右反論書受領後、本件においてそれまでに提出されてきた本件の審査請求書、弁明書、反論書及び前記調査結果を整理した資料並びに付属の添付書類を整理したうえ公害等調整委員会に本件審査請求に対する意見照会を行なつたが、右照会の際、本件審査請求の内容及び争点等につき同委員会で口頭説明を行なう取扱いとなつていたため、その内容及び争点の整理をも合せて行なつていること、ところで、公害等調整委員会は、独立行政委員会であるため、同委員会の意見(回答)は、尊重するに値すること言うまでもないところ、不服申立たる審査請求に対する最終的判断及びその責任は、その請求の相手方たる建設大臣が負うものである以上、同大臣が右回答を前提としたうえ、前記調査結果や本件審査手続における当事者提出に係る書面等を基礎にしたうえで最終的な事実関係の把握をなし、そして、それに対して法律を適用して判断を行なうこととなること、本件においても、収用係ひいては、建設大臣は、本件における公害等調整委員会からの回答を受けた後、右のような経過をへて本件棄却裁決を行なつていること、ところで、守内哲男が右収用係における係長に就任した昭和五六年二月当時、本件棄却裁決の原案(収用係の職員作成)は出来上つていたところ、右守内は、その就任後、前記資料をふまえ、そして、法律解釈(都市計画法上の事業認可について、土地収用法上の事業認定と同様に、その違法性の承継を否定出来るかの問題)をつめたうえで本件棄却裁決の最終案を作成していること、同案については、前記総務課の収用関係担当の課長補佐、同課長、そして計画局長の決済を経ていること、なお、本件審査請求と同様の建設大臣に対する土地収用に関する審査請求のうち、昭和五六年九月一日現在までに裁決のなされているものは、一〇一件(代執行にかかるもの及び本件審査請求を除く。)であるところ、その裁決所要期間は、平均三年一〇か月であり、そのうち形式的要件を具備せず不適法却下となつたものが二六件あり、また、取下、終局処理不明なものが各一件、それらを除いた棄却(一部却下も含む。)案件の裁決所要期間の平均は、四年二か月強であつて、それらの棄却案件と本件審査請求との各手続期間、とくに原告が遅延を主張する前記期間と比較すると、別紙比較表記載のとおりとなることが、それぞれ認められ、右認定事実を覆すに足りる証拠はない。

(二)  そこで、本件審査請求の審査手続に要した各期間を各手続の内容と他の案件における要した期間とを具体的に比較検討すると、まず、審査請求書受理後、弁明書催告までに本件では約一年六か月を要しているが、それは、前示本件の場合の事案の性質等から前示のような事情聴取や資料の収集(右収集に当つては前示のような特殊事情もあつた)をなしたうえ弁明書の催告をなしているためであるとはいえ、本件以外の他の棄却案件中、本件審査請求の右期間を超えたものは、二件のみで、その他のほとんどは、一年以内に終了している点から、本件の右所要期間は、この部分のみを取り上げると他の案件に要した期間より長いといい得る。次に、弁明書受理後、反論書催告までの、本件での所要期間は、約二か月であるが、他の事件における右期間をみるに、弁明書の内容等を検討したうえで反論書を催告すべきかどうか検討するもので、しかも、棄却裁決となつた前記案件中一一件にのぼるものが本件の右期間を超えていることからすると、本件での右二か月は、通常要する期間内の処理といい得る。そして、反論書受理後、公害等調整委員会への照会までの、本件での所要期間は、約二か月であるが、他の事件における右期間をみるに、前記のとおり前記調査結果を整理した資料や本件審査手続において、その当事者から提出された書面をととのえたうえ、同委員会での口頭説明のため本件事業内容や争点の整理などを行うものであつて、しかも、棄却裁決となつた前記案件中、本件で要した右期間を超えるものが二四件もの多数にのぼつていることからすると、本件での約二か月は、通常右手続に要する期間より相当早い段階でその処理が行なわれたものといい得る。最後に、右委員会の回答後、裁決までの、本件での所要期間は、約一年四か月で、右裁決に当つて解決されなければならない前示法律的問題のあること及び本件以外の棄却案件との比較からすると、本件での右期間は、比較的速かに処理された案件の中に入るといい得る。

(三) 以上の本件裁決に至る諸手続の内容とそれに要した期間及び他の案件における所要期間との比較からすると、本件では、審査請求書受理後、弁明書の催告までに要した期間は、他の案件より長い期間を要しているが、その後の手続においては他の案件よりも速かな処理されている部分もあり、結局本件審査請求後、本件棄却裁決がなされるまでの右各期間を通してみると、本件棄却裁決を行なうに要した期間は、他の案件におけるそれよりもむしろ速いといえるところ、右事実に前示本件裁決の対象となる事業の内容と性質、本件審査請求の内容及び右裁決に当つての担当係の人数、事務量等の諸事情を総合考慮すると本件棄却裁決に要した全体としての期間は通常必要とされる期間を超えるものではないとするのが相当である。

してみると、本件棄却裁決に要した期間は、同裁決をなすに必要な「相当の期間」内であるというべきである。

三結論

そうすると、その余の点の判断をなすまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(諸富吉嗣 山田賢 中村哲)

物件目録<省略>

本件審査手続

本件を超えた

期間要した件数

備考

審査請求書受理後弁明書催告までの期間

(なお、同請求書に補正のあるものは、補正

受理後と読みかえる。)

約一年六か月

二件

(<証拠略>)

概ね一年以内に

行なわれている。

弁明書受理後反論書催告までの期間

約二か月

一一件

(<証拠略>)

但し、一〇件は、

所要期間不明

反論書受理後公害等調整委員会への

照会までの期間

約二か月

二四件

(<証拠略>)

但し、三五件は、

所要期間不明

右委員会からの回答後裁決までの期間

約一年四か月

二四件

(<証拠略>)

但し、一件は、

所要期間不明

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例